『Statistics Hacks』

Statistics Hacks ―統計の基本と世界を測るテクニック

Statistics Hacks ―統計の基本と世界を測るテクニック

オライリーが Hacks シリーズというのを出していて、これはその中のひとつ(他のは読んでいない)。タイトル通り統計学の本だ。中身が細かく Hack #1 から #60 まで分かれており、豆知識集という感じだった。統計学を道具として「使う」ことに特化しているらしく、数式もほとんど出てこないし、出てきても数学的根拠が説明されることはない。正規曲線の式すら出てこないのには少々驚いた(ベル・カーブ自体は Hack #23 で紹介されている。標準偏差も利用法だけなら書いてある)。著者がユーモアのある人で、そこかしこにジョークが挟んである。教科書の正反対とも言える本だ。
データを前にした計算の話だけでなく、有効な調査の仕方やテストの作り方といったところまで扱われていて幅広い。データを集める技術も「統計学」のうちということか。確かにデータがどんな素性を持っているのか、というのは大切なことだ。本書には計算するしか能のなかった哀れな統計家の話が紹介されている。彼はたくさんの数値をこねくり回して論文を書いたのだが、その数値の出処は背番号だったのだという。背番号の平均値や偏差値を求めていったいどうするつもりだったのだろうか。
マスメディアには連日、数字が踊る。しかしその数字の「素性」について思いを馳せる人は多くないのではなないかと思う。それに、せっかく数値を出しても解釈が感情論になってしまっては意味がないのだ。本書は大量のデータと共に生きなければならない普通の人のためにある。走り抜けるべきところは颯爽と。考えるべきところは慎重に。その力加減を教えてくれる便利な本だ。一読しておいて損はないと思う。