『ルソー』

ルソー (岩波新書 青版 473)

ルソー (岩波新書 青版 473)

アマゾンのレビューでは星2つで駄作とか言われていたけれど、ルソーのことを全く知らずに読んだ僕には面白く思えた。文章の半分くらいがルソーの作品からの引用でできていて、彼の人生を彼自身の言葉によって辿るという仕組みになっている。確かに彼の哲学理論について研究したいなら、もっとふさわしい解説本はたくさんあるだろう。本書の目的はそうでなく、ルソーという人間の人生を辿り、彼の思想がどのようなところから生まれたのかということを明らかにしようとするものだ。その過程は物語として非常に興味深い。そもそも彼の波乱に満ちた人生自体が人類の逸話みたいなものなのだ。
ルソーは身を持って哲学を語った。彼が持ち出した「社会契約」や「一般意志」などの哲学用語は、同時に革命用語でもある。押し付けがましい知識至上主義と専制に反抗し、人間の生来の尊厳を追求していく中でそのような思想は生まれてきた。彼自身は自分の理想がフランスで実現されることになるとは思っていなかったようで、ただコルシカ島のような小さな地域に希望を掛けている。しかし体制側に焚書されても生き残った彼の著作は、今や世界中で読まれるに至った。原理に立ち返った思想は強い。
「人間よ、人間的であれ」と彼は言った。人間が社会のためにあるのではない。社会が人間のためにあるのだ。しかし社会はときに生命を持ち、独立したシステムとして人間に暴威を振るう。そんなとき、ルソーは人々の心の中に何度でも蘇ってくるだろう。もしあなたが一人の人間的な人間として振舞いたいと願うなら、それに先立って、ある革命児の人生と語りを本書で辿っておいてはいかがだろうか。